工場長として現場を見ていると、こちらが伝えたことと、相手が受け取ったことは必ずしも同じではないと感じることがあります。
当社ではここ数年、ベトナム人を中心とした外国人作業者が増えてきました。
翻訳ツールなどの普及もあり、日常的なコミュニケーションでは以前ほど言葉の壁を感じにくくなっています。
一方で、作業手順やその背景まで含めて正確に伝えるとなると、これまで日本人を前提として作ってきた作業手順書や教育方法では、十分に伝わらない場面もあることが分かってきました。
今回は、実際に当社で発生した品質不良をきっかけに、外国人作業者への教育と、作業手順書のあり方について考えてみます。
「改善したつもり」が品質不良の再発につながった
過去に、ある製品で不適合品を客先へ流出させてしまったことがありました。
その再発防止として、その製品を生産するときには、通常の作業にひと手間加えるようにしていました。
ところが、その後に作業を担当した外国人作業者には、
- なぜその作業が必要なのか
- 過去にどのような不適合が発生したのか
- その作業を省略すると何が起こるのか
という背景まで十分に伝わっていませんでした。
そのため作業者は、そのひと手間を「省略しても問題のない作業」と判断しました。
手を抜こうとしたのではなく、「より効率よく作業したい」という改善のつもりで作業方法を変更したのです。
しかし、その結果、過去と同じ不適合が再発してしまいました。
この事例から、私たちは作業者に「何をするか」は伝えていても、「なぜそれをするのか」までは十分に伝えられていなかったことに気付きました。
Know-HowだけでなくKnow-Whyまで伝える
当社のこれまでの作業手順書は、どちらかといえばKnow-How(どのように作業するか)を中心に作られていました。
例えば、
「この順番で作業する」
「ここを確認する」
「この位置にセットする」
といった内容です。
もちろん、Know-Howは作業手順書にとって欠かせません。
しかし今回の事例では、それだけでは足りませんでした。
作業者がその作業の意味まで理解するためには、
Know-Why(なぜその作業が必要なのか)
まで伝える必要があります。
例えば、
「この工程では、この作業を必ず行うこと」
だけでなく、
「過去に○○不良が発生しており、この作業を省略すると再発する可能性があるため」
というところまで記載する。
そうすれば、そのひと手間が単なる面倒な作業ではなく、品質を守るために必要な作業だと理解しやすくなります。
今後は、Know-Howだけを記載する作業手順書ではなく、Know-HowとKnow-Whyの両方が分かる作業手順書にしていくことが重要だと考えています。
写真付きの作業手順書でも、すべては伝わらない
当社の作業手順書には、以前から写真も掲載しています。
文章だけの手順書と比べれば、写真があることで作業内容はかなり分かりやすくなります。
しかし、それでも、
「ここは絶対に変更してはいけない」
「多少違って見えても、この方法には理由がある」
「異常を感じたら自己判断せず、責任者に確認する」
といった細かな意味やニュアンスまでは、写真だけでは十分に伝わらないことがあります。
日本人同士であれば、過去の経験や周囲との会話、先輩からのちょっとした説明などによって、自然に補われていた部分もあるのかもしれません。
しかし、言葉や文化、これまでの経験が違えば、その「言わなくても分かるだろう」が通用するとは限りません。
今回の品質不良は、作業者だけの問題ではなく、教育する側の伝え方にも改善する余地があったと考えています。
すべてをベトナム語に翻訳するのも現実的ではない
では、作業手順書をすべてベトナム語に翻訳すれば解決するのでしょうか。
もちろん、母国語で読めることは理解の助けになります。
当社でも、日常のコミュニケーションでは翻訳ソフトなどを活用しています。
しかし、製造現場には多くの作業手順書があります。
それらをすべて翻訳し、さらに日本語版を改訂するたびにベトナム語版も更新していくとなると、かなりの負担になります。
また、実際の作業中に分からないことが出るたび、その場で翻訳ソフトを使って確認することも現実的ではありません。
そこで必要なのは、
日本語をそのまま別の言語に置き換えることだけではなく、そもそもの表現方法を分かりやすくすること
だと考えています。
例えば、
「十分注意して作業する」
ではなく、
「この作業は省略禁止」
「この条件は変更禁止」
「異常があれば作業を止めて責任者を呼ぶ」
「この作業を省略すると○○不良につながる」
というように、判断基準や禁止事項、そしてその理由まで明確にする。
これは外国人作業者だけでなく、新人や経験の浅い日本人作業者にとっても分かりやすい表現になります。
動画による作業手順書も検討している
もう一つ、現在検討しているのが動画による作業手順書です。
紙の作業手順書では、文章と写真を使って説明します。
しかし、実際の製造作業には、
- 手の動かし方
- 製品の持ち方
- 作業する順番
- 確認する位置
- 作業のスピード
- 正常時と異常時の違い
など、静止画だけでは表現しにくい部分があります。
こうした部分は、動画の方が伝えやすい場合があります。
一方で、動画を見せるだけでは、「なぜその作業が必要なのか」までは十分に理解できない可能性があります。
そのため当社では、
紙の作業手順書では、作業方法・判断基準・作業の根拠を伝える。
動画では、実際の動作や作業の流れを見せる。
というように、それぞれの特徴を活かした教育方法ができないか検討しています。
すべてを一度に変えることは難しいですが、少しずつ現場に合った方法を試しています。
外国人作業者への教育をきっかけに、作業手順書そのものを見直す
今回の経験から感じたのは、外国人作業者への教育で必要なのは、単純に日本語を翻訳することではないということです。
大切なのは、
「どう作業するのか」というKnow-Howだけでなく、「なぜその作業が必要なのか」というKnow-Whyまで伝えること。
そして、誰が作業しても同じように理解し、同じように判断できる仕組みにしていくことです。
これまで日本人同士では、
「これくらい分かるだろう」
「今までこうしてきたから」
という暗黙の了解で成立していた部分が、実は少なくなかったのかもしれません。
外国人作業者が増えたことで、その部分が見えるようになったとも言えます。
写真を使う。
表現を分かりやすくする。
作業の根拠を記載する。
翻訳ソフトを活用する。
そして、必要な作業については動画による手順書も取り入れる。
一つの方法ですべてを解決するのではなく、それぞれを組み合わせながら、より伝わりやすい教育方法を作っていく。
外国人作業者への教育を見直すことは、結果として日本人を含めたすべての作業者にとって、分かりやすい作業手順書や教育の仕組みを作ることにつながると考えています。

